陥入爪と巻き爪

陥入爪とは主に足母趾の爪甲(いわゆる爪のこと)側縁が皮膚を傷つけて炎症を引き起こす疾患です。もちろん痛みもありますが、爪甲の高度な湾曲や変形はありません。形成外科医でも巻き爪に炎症を伴ったものを陥入爪と誤認している場合があります。
 ですから一般医家の間で、巻き爪と陥入爪の混同・誤用が多いのも無理のないことなのです。巻き爪というのは爪甲が厚くなり、高度に湾曲してゆく疾患名のことで、痛みが主な症状です。深爪をしなければ炎症を起こすことは稀です。巻き爪で炎症を起こしたものは炎症性(あるいは化膿性)の巻き爪であって、陥入爪ではありません。
 陥入爪で爪甲側縁が皮膚を傷つける原因としては深爪や外傷(ぶつけたり窮屈な靴による圧迫)があります。生後6ヶ月の赤ちゃんにも深爪をすると陥入爪は起こります。足を蹴る動作で母趾のつめが皮膚を傷つけるからです。
 活発な中学生や高校生では、男女を問わずよく起こります。陥入爪を観察すると、爪甲側縁の変形はなく、爪は厚くありません。腫れた皮膚や肉芽(炎症を起こした不良な肉の盛り上がり)が爪の上を覆っているため、いかにも爪が皮膚に食い込んでいるように見えます。
 しかし、爪甲の病的な湾曲や変形はありません。爪母には原因はないのです。根気よく保存的療法(治療法の項参照)を加えると根治することや、爪母を切除しても再発することはこれを示唆しています。

 陥入爪の解説でも述べているように、巻き爪というのは爪甲が厚くなり、高度に丸まって管状になる疾患名のことで、痛みが主な症状で深爪や外傷がなければ炎症を起こすことは稀です。爪甲を上から見ると幅が先細りに狭くなり、爪甲の先端の方から見ると右に90度倒したC字型をしています。
 男性にも起こりますが、中年以降の女性に多く見られます。主に足母趾に起こりますが、手指の爪に起こることもあります。まだはっきりした原因は解っていませんが、加齢と共に爪甲が厚くなり、それに何らかの要因が加わって起こるようです。
 巻き爪を持った方からは、痛みのために靴が履けず、おしゃれができないとか、冠婚葬祭に出掛けられないという悩みをよく聞きます。触るだけでも痛いので、冬場の寒い時でも、掛け布団から足だけ出して寝るそうです。
 さて治療法ですが、やはり保存的(非観血的)療法と外科的(観血的)療法が考えられます。巻き爪は陥入爪とは異なり爪甲に強度の湾曲があるので、爪甲のみに働きかけて湾曲を矯正しようとする保存的療法と、爪床(爪母の延長したもので爪甲を支える働きをしている)やその下の骨まで形成して爪甲を平坦化する外科的療法に分けられます。

外的治療法と保存的治療法

陥入爪の場合・・・
保存的(非観血的)治療法
 食い込んだ爪甲縁の直下にコットン、ガーゼ、ビニールチューブなどを挿入して爪甲縁が皮膚を傷つけないようにする治療法です。コットンやガーゼは固定性が悪く、陥入爪が治癒する前に取れてしまうためうまく行きませんでした。
 ビニールチューブを爪甲縁に被せる方法は、爪にナイロン糸で固定すれば外れずに、痛みもなく陥入爪を治癒させることが出来ます。爪の根元の炎症を抑えることも容易です。
 予防のためには深爪は厳禁です。当院では爪切りを使わずに爪ヤスリで削ることを勧めています。もちろん再発することもありますが二度目からは自分でチューブを挿入して治すことも可能です。

外科的(観血的)治療法
 爪母の一端(または両端)を切除または破壊して、爪の幅を狭くする方法です。しかし陥入爪の発生は爪母に原因があるわけではないので、爪母のみを操作してもすべてが解決するはずはありません。切開式爪母部分切除、フェノールによる爪母上皮の化学熱傷凝固、さらには電気メスやレーザーによる焼灼なども行われています。
 この方法では爪の幅が狭くなるうえに、微細な爪母の取り残しがあると、脇に小さな爪が生えたり、再発したりします。この考えの延長で最終的に、爪甲根絶術で爪を生えなくする手術もあります。陥入爪が治っても、形成外科的にみて醜形を残すような手術的療法は、成功とはいえません。

巻き爪の場合・・・

保存的(非観血的)治療法
 炎症を伴う場合は、まず陥入爪の治療に準じてビニールチューブで炎症をなくします。湾曲した爪甲の矯正には針金、プラスチック、アクリル樹脂、形状記憶合金プレート、形状記憶合金ワイヤー等が用いられています。
 最も簡便な方法は形状記憶合金ワイヤーを爪甲の先端にあけた孔に通して爪甲の湾曲を矯正しようとする方法です。深爪の場合は使えないし、先端のみの矯正なので、広がった爪の先が波打ち、格好が悪いという欠点があります。
 爪の両側縁にステー(支え)を貼り付けて、そこに形状記憶合金ワイヤーを通す方法は爪甲の根元から爪甲を平坦化できるので、深爪にも装着できる上に整容的にも優れた方法です。これは開業以来行っている当院オリジナル(世界初)の方法です。
 ワイヤーを用いる方法の利点は即座に痛みが取れる点と施術に痛みを伴わない点です。巻き爪の痛みに悩まされている方にとって現在行える最良の方法と思われます。
 爪が伸びる速さによって爪甲が平坦になるまでの時間は違います。気長に治療することになりますが、平均で半年はかかります。たとえ再発しても何度でも同じ方法が使えます。

外科的(観血的)治療法
 たとえ治療に痛みが伴おうとも爪甲の平坦化を早く実現して欲しい患者さんの場合に適応になります。爪床を形成して爪甲を平坦化する手術です。骨を削る場合もあります。入院が必要になる場合もあります。
 保存的(非観血的)療法で痛みもなく治療できても、外科的(観血的)療法を選ぶ方はいるかもしれません。医療はインフォームド・コンセント(説明と同意)からインフォームド・チョイス(説明を受けたあとの治療法の選択)の時代へと変化しています。保存的治療法を選ぶか外科的治療法を選ぶか選択が必要となっています。